しか先輩のブログ

「正しい人の口は知恵を実らせる。しかし、ねじれた舌は抜かれる」

「劇場」(又吉直樹)の世界観

「劇場」(又吉直樹、新潮社)を読んでみたので、印象に残ったところをメモしておきます。なんかこの人、私と似たような幼少時代を送ってきたのかもしれないな、と直感で思わされた気がします。登場人物が考えている言葉の節々や、切り取る風景からなんとなく。

あと、昔住んでいた三鷹や高校生の時によくぶらぶらした吉祥寺の街がこういう風に、映像を見るように表現されているのは個人的に嬉しくなってしまいます。

劇場

劇場

 

これだけはメモしておきたいな、と思った箇所があったのでこちら。

 

嫉妬という感情は何のために人間に備わっているのだろう。何かしらの自己防衛として機能することがあるのだろうか。嫉妬によって焦燥に駆られた人間の活発な行動を促すためではなく傍観のようなものであったなら人生はもっと有意義なものになるのではないか。自分の持っていないものを欲しがったり、自分よりも能力の高い人間を妬む精神の対処に追われて、似たような境遇の者で集まり、嫉妬する対象をこき下ろし世間の評判がまるでそうであるように錯覚させようと試みたり、自分に嘘をついて感覚を麻痺させたところで、本人の成長というものは期待できない。他人の失敗や不幸を願う、その癖、そいつが本当に駄目になりそうだったら同類として迎え入れる。その時は自分が優しい人間なんだと信じこもうとしたりする。この汚い感情はなんのためにあるのだ。人生に期待するのはいい加減やめたらどうだ。自分の行いによってのみ前向きな変化の可能性があるという健やかさで生きていけないものか。この嫉妬という機能を外してもらえないだろうか。と、考えてすぐに無理だと思う。

 

そうなんだよなぁ。「どれだけ充実した生活を毎日送っているか」「どれだけ幸せな人生を送っていると人に見られるか」そんなことばかりで自分を評価してしまうのは、この嫉妬といういらん機能のせいだと思います。

 

印象に残っている表現がもう一つ。

「演劇の可能性って、演劇ができることってなんやろうって、最近ずっと考えてた。ほんならな、全部やった。演劇でできることは、すべて現実でもできるねん。だから演劇がある限り絶望することなんてないねん。わかる?」

いや〜本当に全てできるかな?でもそう信じたいですね。

でも一つだけ言えることがあります。本を読んで、夢と現実を行ったり来たりします。虚構があるからこそ、虚構の素晴らしさを手に取るようにわかるからこそ、現実の世界の方がもっと色鮮やかで、強烈で、悲しみも多いし、喜びも多いのだと思えます。虚構がなかったら、そんなことも感じられないかもしれない。本があって、演劇があって、音楽があって、絵があってよかったな!